■ Tさん

aquio2008-01-14

Tさんとの付き合いは三十年にも及んだ。
昔、私は長野県の白馬村で小さな宿を経営していた。
そのことは前の日記にも書いたが、
Tさんは、私が経営する宿の常連のお客様であった。
ある時、
「Tさんの顔には見覚えがある」、と母が言い出した。
で、いろいろと話をしていくうち、
その昔、Tさんのお祖母さんは、
兵庫県の明石で美容院を経営していらっしゃったこと。
その美容院に娘時代の母が足繁く通っていたこと。
母の髪質がとても良かったらしく、
新しい髪形を考案される度、
Tさんのお祖母さんは私の母を髪型のモデルにしていたこと、などが判明する。
Tさんの顔は、
美容院を経営されていた、そのお祖母さんの顔に生き写しであったのだ。
そんなことがあってから、
私の家族とTさんは、その親密の度を増していった。
数年前、Tさんのお父さんが鬼籍に入られてしまう。
毎年、年賀状のやり取りはあったものの、
その頃からTさんとの親交は途絶えがちになってしまっていたが、
昨年の九月、そのTさんがフラリと我が家を訪れてくれる。
屈強であったTさんの体つきは、別人かと見間違うほどに痩せ細っていた。
喉頭癌」であった・・・。
最後の挨拶に来てくれたのだろう、と思う・・・。
昨晩、午後八時五分。
Tさんは鬼籍に入られてしまった。
五十七年の生涯だった。
晩婚であったTさんには三人の小さな娘さんがいる。
そして、Tさんは従業員数一千人を超す会社の社長でもあった。
友達が少しずついなくなっていく・・・。
賑やかなコトが大好きだったTさんを偲び、
賑やかな「VERDI/ヴェルディ」のレクイエムを聴きながら、岡山から車で神戸に向かう。