■ Tさん
Tさんとの付き合いは三十年にも及んだ。
昔、私は長野県の白馬村で小さな宿を経営していた。
そのことは前の日記にも書いたが、
Tさんは、私が経営する宿の常連のお客様であった。
ある時、
「Tさんの顔には見覚えがある」、と母が言い出した。
で、いろいろと話をしていくうち、
その昔、Tさんのお祖母さんは、
兵庫県の明石で美容院を経営していらっしゃったこと。
その美容院に娘時代の母が足繁く通っていたこと。
母の髪質がとても良かったらしく、
新しい髪形を考案される度、
Tさんのお祖母さんは私の母を髪型のモデルにしていたこと、などが判明する。
Tさんの顔は、
美容院を経営されていた、そのお祖母さんの顔に生き写しであったのだ。
そんなことがあってから、
私の家族とTさんは、その親密の度を増していった。
数年前、Tさんのお父さんが鬼籍に入られてしまう。
毎年、年賀状のやり取りはあったものの、
その頃からTさんとの親交は途絶えがちになってしまっていたが、
昨年の九月、そのTさんがフラリと我が家を訪れてくれる。
屈強であったTさんの体つきは、別人かと見間違うほどに痩せ細っていた。
「喉頭癌」であった・・・。
最後の挨拶に来てくれたのだろう、と思う・・・。
昨晩、午後八時五分。
Tさんは鬼籍に入られてしまった。
五十七年の生涯だった。
晩婚であったTさんには三人の小さな娘さんがいる。
そして、Tさんは従業員数一千人を超す会社の社長でもあった。
友達が少しずついなくなっていく・・・。
賑やかなコトが大好きだったTさんを偲び、
賑やかな「VERDI/ヴェルディ」のレクイエムを聴きながら、岡山から車で神戸に向かう。