■ 整理・その17・HAMPELMANN

aquio2008-02-03

ローマの博物館に保管されていたモノを、
ミュンヘンの「Franz Josf Holler/ホラー社」が
一九七九年に復刻した「HAMPELMANN/ハンペルマン」。
両手と両脚を割りピンで胴体にゆるく固定し、
垂れ下がった紐を引っ張ると、
人形の両手と両脚がまるでジャンプするかのように動く。
ドイツ語の「HAMPEL」には、
「手足をバタバタと動かす」というような意味がある。
ちなみに、「ハンペルマン」のことを、
英語では「JUMPING JACK/ジャンピング・ジャック」、
仏語では「PANTIN/パンタン」、
伊語では「FANTOCCI/ファントッチ」、と呼び習わしている。
十八世紀の末頃、
機械による紙漉きの技術がイギリスで発明されるまで、
紙はもっぱら一枚ずつ手で漉かれていたが、
「朕は太陽なり」とほざいた、あの「ルイ十四世」がフランスの王であった時代、
宮廷に出入りする王侯貴族の奥方たちの間で、
この「パンタン」が大流行する時代があった。
奥方たちはお抱えの絵師や職人たちに「パンタン」を作らせ、
そのオリジナル性や出来映えを競ったという。
「パンタン熱」は相当に過熱していたらしいが、
「パンタンを持つ奥方たちには手足の曲がった子どもが生まれる」、
という、ある占い師のお告げがあってからというもの、
「パンタン熱」は急速に冷えていってしまったらしい。
前述したように、英語では「ハンペルマン」のことを「ジャンピング・ジャック」と呼ぶ。
紐を引っ張れば、「ジャンピング・ジャック」はまったく同じ動作を何度も繰り返す。
そのことから、
上司の言うことに対して何の異論も挟まない男のこと、
常に「イエスマン」である男のことを、
イギリスやアメリカでは「ジャンピング・ジャック」、とそう呼んでいる。
また、ドイツにおいては、表面と裏面、
その両面に違う顔を持つ「ハンペルマン」が現在も作られている。
十九世紀の初頭、「ナポレオン」がドイツに攻め込んでベルリンを征服した時、
ドイツの国民は、内心では反抗しながらも、
表面は「ナポレオン」に服従するように見せかけなければならなかったらしい。
いわゆる「面従腹背」なのだが、
この裏表両面に顔を持つ「ハンペルマン」のオリジナルは、その時代に作られたという。
ドイツのおもちゃ職人たちは、「ハンペルマン」を通じて「面従腹背」を表現しようとしたのだという。
おもちゃの歴史を辿るのは面白いものである。
おもちゃの歴史を辿るという作業は、
人間の歴史を辿る、ということと同じ意味を持つ。