■ 整理・その22・マイクロ・メーター
自宅の納戸をゴソゴソと探っていたら、
古ぼけた缶の中から、
油紙に包まれたマイクロ・メーターが出てきた。
電気技師だった父が使っていたマイクロ・メーター。
私に物心がついた時、
自宅にはすでに様々な工具が転がっていた。
ニクロム線を巻き取るための巻線機なども置いてあった。
時計の針に似たゲージがついている巻線機。
上のゲージにはゼロから一千までの目盛りが刻まれていて、
下のゲージには一千から一万までの目盛りが刻まれていた。
ハンドルを回すと、
上のゲージの針がジリジリと回転していく。
針が九百九十を越える頃になると、
下のゲージの針が一千の辺りを指し示す。
その複雑な歯車の組み合わせの動きが面白く、
飽きるまでグルグルとハンドルを回して遊んでいたことを、懐かしく思い出す。
今、私はからくり人形の製作とデザインを仕事にしているが、
あの幼児期の体験がなければ、
家に巻線機などがなければ、現在の私はなかった、とそう強く思う。
マイクロ・メーターには、
「0.001mm MITUTOYO H826538」と刻印されている。
どうやら、これは精密測定機器のメーカーである「ミツトヨ」のものであるらしい。
試しに直径0.5mmのシャープ・ペンシルの芯を測ってみる。
なるほど0.5mmであるな。
いったい何年前に製造されたマイクロ・メーターなのだろうか・・・。
どちらにしても、父の遺品であることには間違いがない。
からくり人形の制作の現場において、
マイクロ・メーターなどめったに使うことはないが、
父が遺していったモノであるから、いつも工具箱に入れておくことにしよう。
それにしても、工具はどうしてこうも美しい形をしているのだろうか。
必要最小限のフォルム・・・。
余分な贅肉はどこにも付いていない。
百分の一ミリまで測定できるマイクロ・メーター。
グリップの辺りが汚れている。
父の手指の脂なんだろう。
涙が出そうになる・・・。