■ 発情期
若い頃に、
「地球最後の男」というタイトルのSFを読んだ憶えがある。
ある夜、地球を流星群が襲う。
流星群はある種のウイルスを地球にばら撒き、
そのウイルスに感染した人間は吸血鬼になってしまう。
眼病を患っていた主人公は流星群を見なかったため、
世界でただ一人、吸血鬼になることを逃れる。
気がつけば、世界は吸血鬼に席捲されていて、
生き延びるために主人公は次々と吸血鬼を殺していく。
吸血鬼たちが眠っている昼間を狙い、
主人公は木の杭を吸血鬼の心臓に打ち込んでいくのだが、多勢に無勢。
世界は次第に吸血鬼たちのものになっていってしまう。
ところが、主人公に殺される吸血鬼の側からすれば、
「我々が眠っている間に我々を殺していく者がいる」
「まるで吸血鬼のような存在・・・」、ということになる。
マイノリティな存在であった吸血鬼がマジョリティになったため、
マジョリティであった人間がマイノリティな存在になっていってしまう。
いろいろな示唆に富んだSFであった。
まだその映画は観ていないが、「ウィル・スミス」主演の「I am legend」は、
どうやら、この「地球最後の男」が下敷きになっているらしい。
で、その「地球最後の男」の粗筋をぼんやりと思い出しているうち、ある小説の構想を思いつく。
小説のタイトルは「発情期」。
ある夜、地球を流星群が襲う。
流星群はある種のウイルスを地球にばら撒き、
そのウイルスに感染した人間は発情しなくなってしまう。
一年に一度、ある季節の一週間だけ発情する、という病気に罹ってしまうのだ。
眼病を患っていた主人公のNさんは流星群を見なかったため、
世界でただ一人、いつも発情している男になってしまう。
発情期を心待ちにカレンダーに「×」印をつけている女房どもや、
発情期が近づくとどこかに雲隠れしてしまう亭主たち。
発情期が一時期に集中してしまうため、
十月十日後の産婦人科病院は阿鼻叫喚の場と化してしまう・・・。
こんなプロットの小説はどうだろうか。
芥川は無理でも、直木は狙えるかもしれないな。