■ 晩夏

aquio2008-08-29

前年の冬至から翌年の夏至に向かって、
太陽からの光と熱の照射量は徐々に増えていく。
そして、夏至から冬至に向かって、
その照射量は少しずつ減少していく。
冬至から少しずつ大気中に蓄えられていた熱が、
夏至からは少しずつ放出されていく。
だから「暑さ寒さも彼岸まで」なのだが、
そもそも「秋彼岸」とは秋分の日のあたりではなかったか。
この頃から涼しくなり始めるのが通例であったはずだが、
ここ一週間の、この涼しさはいったいどうしたワケだろう。
衣更えも十月一日と決まっていたはずだが・・・。
衣更えといえば、
私が中学一年生であった時、
十月一日の衣更えの日に、S君が夏の制服のままで登校してきたことがあった。
夏服を着て登校してきたことについては、ま、笑って済ませられることであったが、
衣更えに気付かなかった母親を恨めしく思ったのだろう、
S君は椅子に座ったままでシクシクと泣いていた・・・。
彼の母親は子どもの私でさえ知っているほどの、だらしない女であった。
高校を中退した後、S君はヤクザの組に入り、
ヤクザ同士の抗争に巻き込まれて殺された、という話を風の噂で聞いたことがある。
外の景色を眺めながらS君のことを思い出していたら、
金沢美大鋳金を学ぶN君から電話がかかってきた。
彼はつい先日まで私のアトリエにインターンシップで来ていたのだが、
「無事に金沢に帰りついた」、という連絡であった。
彼は三重県松坂の出身であり、
インターンシップのお礼に松阪肉を贈る」、と言ってくれていた。
「肉はいつ届ければいいですか?」、と言うから、
「その肉の代金は君が支払うのか?」、と訊くと、
「いえ、それは・・・、両親です」、と言いやがる。
「気持ちは有り難いが、ご両親の買ってくれた肉は受け取れない」
「それよりも、君の作った作品を私に一つ贈ってほしい」
「その方が私も嬉しい」、と答えておいた。
N君は優秀で気持ちのいい若者だが、まだ少し親離れができていない。