■ 講義・その2

aquio2008-10-08

芸工大における講義二日目。
今日は簡単な動くおもちゃを作ることになっている。
両足をせわしなく動かしながら綱を渡っていく、
いわゆる綱渡り人形の制作。
人形の腰から膝の関節までの距離と、
膝から足首の関節までの距離を定め、
人形のデザインは各自に任せることにした。
「機素・きそ」という言葉がある。
文字通り「機械の素」という意味の言葉だが、
どんなに複雑に見える機械であっても、
その元を辿れば、
クランク、チェーン、ギア、フライ・ホイール・・・といった、
実に単純な機構の集合体であることが理解される。
その元になる構造のことを「機素」と呼び習わしているのだが、
この簡単な綱渡り人形にも、
「三節リンク」と呼ばれる「機素」が使われている。
多くの学生たちにとってはチンプンカンプンであったようだが、
はっきりと理解できる学生がたった一人だけではあるが、いた。
講義終了後に訊いてみたところ、彼の実家は農家であるらしい。
他の学生の年齢は二十歳前後であるが、彼は二十七歳になっているらしい。
家業を継ぐつもりでいたが、
木工の世界への興味捨てがたく、この大学で学ぶことを決意した、という。
あれだね、他の学生たちとは真剣さの度合いが違うね。
人間が成長して、なお社会的義務の遂行を猶予される期間。
または、その猶予にとどまろうとする心理状態のことを「モラトリアム」と言うが、
彼はモラトリアムの心理状態からとっくに脱出してしまっている。
講師としても、このような学生には教え甲斐がある、というものであるね。