■ 送別会
Sさんが退社することになった。
今日はその送別会。
午後七時、湯郷温泉の「珍竹林」に関係者があつまる。
Sさんは七年の長きに亘って勤務してくれた。
彼女がいないと職場も困ったことになるのだが、
辞意も固いようであるから、
これ以上引き止めるワケにもいかない・・・。
「辞めてどうするの?」、と訊くと、
「東京のU社への就職が決まっている」、という。
もともと東京志向の強い女性であったし、
芯の強い女性であるから、
ま、東京でもなんとかやっていけるに違いない。
おもちゃの業界では著名なU社ではあるが、
U社にとって、Sさんは強力な戦力になるに違いない。
手塩にかけて育てた娘が商売敵の店に嫁いでいってしまう・・・。
そんな気がしないでもないが、
Sさんの人生はSさんのものであるから、
ま、仕方がない。
嫁ぐ以上は、そこにおける生活を全うするしかないだろうね。
それにしても、
十四年の間にいったい何人の若者を送り出したのだろうか・・・。
皆、新天地を見つけては私のもとを去って行く。
もっとも、彼らとはそれで完全に縁が切れた、というワケではなく、
何かと都合を見つけては、時折私のアトリエを訪れてくれてはいる。
信頼されているんだか、信頼されていないんだか・・・。
花屋と大工、
その仕事の内容には天と地ほどの違いがあるが、
仕事には常に人が関わってくる。
人との関わりという点においては、花屋も大工も、その内容に違いはほとんど無い。
転職を重ねたところで、人との関わりはどこも似たようなものだろう。
Sさんの実家は湯郷の近くであるから、
里帰りの折には、ぜひとも顔を出して欲しい、と思う。