■ 退職

私のアトリエに七年も勤務していてくれた
Ｉ さんが今日で辞めていく・・・・。
天然酵母を使ったパン屋を開業することになった。
そういえば、
数年前に辞めていったＭ君もパン屋になった。
彼らにからくり人形の作り方を教えた記憶はあるが、
パンの作り方を教えた記憶はない。
おっかしいなぁ・・・、
パン屋になるのが流行っているのだろうか・・・？
「弟子にして欲しい」と、
彼女が私のアトリエの門を叩いたのは、
彼女が二十六歳になったばかりの時だった。
それから七年・・・・、
私は私の人生の貴重な一時期を彼女のために捧げた。
あぁそれなのに、
彼女はからくり人形を捨ててパン屋になってしまう。
「私の青春を返してくれ」と、彼女には言いたい。
ま、しかし、
本当によく働いてくれたと彼女には感謝したい。
彼女が開業するパン屋はアトリエから歩いて十五分ほどのところ。
山の中腹にある。
毎日のようにパンを買いにいってやろう。
彼女のために餞別の品を作ることにした。
針金と端材で牛のからくり人形を作る。
店にでも飾ってもらえればと思う。