■ SEMPEROPER/ゼンパー・オーパー
午後五時、
ヴォルフガング夫妻とアウアーバッハ夫妻が
ホテルにやって来る。
「今から皆でドレスデンに行こう」
「今夜はゼンパーオーパーでバレエを観よう」
「チケットはもう買ってあるから」、と言う。
「それならもっと早く言ってくれないと困る」
「ネクタイすら持ってきていない」と言うと、
「くだけた服装でも構わない」と言う。
Gさんを含め、
五人がヴォルフガングが運転する車に乗り込んでドレスデンに向かう。
バレエが始まるまでに、
近くのレストランで夕食を済ませることにした。
今夜はすべてヴォルフガングのおごりであるらしい。
日本から持参した「左利き用のナイフ」をヴォルフガングにプレゼントする。
ザイフェンが社会主義の国に組されていた頃、
左利きの人間はすべて右利きになるように修正を強制されたという話を聞く。
そのせいか、
ヴォルフガングは右手も左手と同じように器用に動かせる・・・。
アウアーバッハさんには二枚のからくり人形の制作図面をプレゼントする。
「ゼンパーオーパー」の正式名称は「ドレスデン国立歌劇場」。
約百五十年ほど前に建てられた建物。
バレエは旧約聖書の「天地創造」をテーマにしたものだった。
前衛的な絵画がスクリーンの上に次々と映しだされる。
その絵画の前で前衛的なバレーが繰り広げられる・・・。
ダンサー達の衣装はすべて白一色に統一されていた。
イタリア・ルネッサンス様式の建物の中で観る前衛バレエ・・・。
この辺りは「小さなフィレンツェ」と呼ばれているらしい。
素晴らしい体験であった。
今年の十二月、
この「ゼンパーオーパー」ではモーツアルトの「魔笛」が上演されるらしい。